海外転職を成功させるために最も重要なのは、正確な情報収集です。求人票だけでは見えてこない現地の業界動向や転職市場の実情を把握することが、後悔しないキャリア選択につながります。
今回は、IT人材大国として注目を集めるベトナムに焦点を当て、現地のIT業界の最新動向や転職市場の特徴、そしてどのような人材が求められているのかを詳しくまとめました。
目次・ ベトナム政府がIT産業を推進するために取り組んでいる政策について ・ まとめ |
ベトナムのIT業界の規模・成長について
ベトナムのIT業界は、近年著しい成長を遂げています。アプリケーション開発、ソフトウェア開発、情報セキュリティ、データサイエンスなどの分野で、世界有数の企業と取引を行っており、外国人材も多数参入しています。また、国内のスタートアップ企業も増加しており、ベトナムのIT産業は非常に活気があるといえます。
ベトナムは、アジアの中でも人口が多く、2024年には人口が約9,950万人に達し、2025年には1億人を超えると予測されています。労働力の豊富な国であり、政府はIT産業を重要な成長エンジンのひとつと位置づけ、積極的に推進しています。
情報通信技術(ICT)部門の市場規模は、2024年時点で約91億ドル(約1.4兆円)と推定され、2029年には約146億ドルに達する見込みで、年平均成長率(CAGR)は約9.9%と予測されています。この成長は、政府によるデジタル化推進、クラウド・AI・データセンターへの投資拡大、そして企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)需要の高まりによって支えられています。
また、ベトナム政府は「国家デジタル変革プログラム(2025年までの目標、2030年までのビジョン)」を承認しており、デジタル経済の拡大を国家戦略として位置づけています。このプログラムでは、2025年までにデジタル経済がGDPの20%を占め、各産業・分野におけるデジタル経済の割合が10%に達することを目標としています。さらに2030年までには、デジタル経済がGDPの30%を占め、各産業・分野における割合が20%に達することを目指しています。
2021年の「e-Conomy SEA」レポートでは、ベトナムのインターネット経済は210億ドルに達し、GDPの5%以上を占めていました。2025年には570億ドルに達すると予測されており、東南アジアで上位に位置づけられると見込まれています。ただし、インドネシアやフィリピンなど他国の急成長もあり、順位は変動する可能性があります。
このように、ベトナムのIT業界は政府の強力な支援と民間の活発な投資により、今後も持続的な成長が期待される分野です。特に、クラウドコンピューティング、AI、フィンテック、データセンターなどの分野では、国内外の企業による積極的な展開が進んでおり、ベトナムは東南アジアのITハブとしての地位を確立しつつあります。
ベトナムがITハブとなる理由
ベトナムは、近年急速にITハブとしての地位を確立しつつあります。その背景には、以下のような複数の要因が複合的に作用しています。
若い人口の多さ
ベトナムの人口の約70%が30歳以下とされており、若年層の多さがIT産業の成長を支える大きな原動力となっています。若い人材は新しい技術への適応力が高く、変化の激しいIT業界において柔軟かつ迅速に対応できる点が大きな強みです。
ベトナム政府の支援
ベトナム政府は、IT産業を国家の成長戦略の柱と位置づけ、積極的な支援を行っています。国家デジタルトランスフォーメーションプログラム(DX国家戦略)を通じて、IT人材の育成、インフラ整備、電子政府の推進などを進めており、IT関連企業に対しては税制優遇措置も導入されています。
優れた人材の育成
ベトナムの大学や専門学校では、情報技術、コンピュータサイエンス、電子工学などの分野において質の高い教育が行われています。STEM教育の強化により、実践的なスキルを持つ人材が多数輩出されており、英語力の高い人材も多く、グローバル市場への対応力も備えています。
地理的な優位性
ベトナムはアジア太平洋地域の中心に位置し、日本、中国、韓国、ASEAN諸国といった主要市場に近接しています。この地理的な利点により、物流やビジネス展開の面で非常に有利な立地条件を持っており、グローバル企業にとって魅力的な拠点となっています。
コスト面での競争力
ベトナムの人件費は、日本や欧米諸国と比較して低く、オフショア開発先として高いコストパフォーマンスを誇ります。IT人材の平均月収は上昇傾向にあるものの、依然として国際的には競争力があり、企業にとっては高品質な人材を比較的低コストで確保できる環境が整っています。
また、政府の支援により、IT関連企業には安価なオフィススペースやインフラが提供されるケースもあり、スタートアップや外資系企業の進出を後押ししています。
ベトナムのIT人材について
ベトナムは急速に成長するIT産業を支えるため、あらゆる角度から優秀なIT人材を輩出するための政策を積極的に展開しています。以下では、教育制度、国民性、そしてコストパフォーマンスの観点から、ベトナムのIT人材の特徴を詳しく見ていきます。
教育システム
ベトナムでは、STEM教育(科学・技術・工学・数学)に力を入れており、中学校からプログラミングやIT関連科目を学ぶカリキュラムが導入されています。高等教育機関では、情報技術、コンピュータサイエンス、電子工学などの専攻が充実しており、実践的なスキルを持つ人材が多数育成されています。
また、英語教育にも早くから取り組んでおり、2011年から小学校での英語教育が開始されました。これは、グローバルなIT市場で活躍するための重要なスキルとして評価されています。2025年現在、開発者の約52%が大学、22%がカレッジでIT技術を習得しており、AIやChatGPTなどのツールを活用した自己学習も一般的になっています
環境と国民性
ベトナム人は、フレンドリーで真面目、家族思いという国民性を持ち、企業との信頼関係を築きやすいと評価されています。多様な文化的背景を持つ環境で育ったことにより、自然と高いコミュニケーション能力が養われており、チームワークや国際的なプロジェクトにも柔軟に対応できます。
さらに、向上心が高く、学習意欲の強い人が多いのも特徴です。社会人になってからも語学や専門知識の習得に励む人が多く、継続的なスキルアップを重視する文化が根付いています。実際、開発者の約43%がChatGPTなどのAIツールを使って新しい技術を学んでいるという調査結果もあります
コストパフォーマンス
ベトナムのIT人材は、国内では高収入層に位置づけられています。一般的な平均月収が約3万円程度であるのに対し、IT人材の平均給与は月10万〜15万円以上とされています。中堅〜シニアレベルのエンジニアでは、月20万円を超えるケースも増えており、給与水準は上昇傾向にあります。
それでも、日本や欧米諸国と比較すると依然としてコスト競争力が高く、多くのグローバル企業がベトナムのIT人材を積極的に採用しています。特に、オフショア開発やラボ型開発を導入する企業にとっては、質の高い人材を低コストで確保できる点が大きな魅力となっています。
ベトナムのIT業界のトレンド
ベトナムのIT産業は急速に発展しており、さまざまな分野で注目を集めています。以下では、特に成長が著しい分野を中心に、最新のトレンドをご紹介します。
ソフトウェア開発
ソフトウェア開発は、ベトナムのIT産業において最も成熟し、成長を続けている分野の一つです。ベトナムは世界トップ10のソフトウェアアウトソーシング提供国にランクインしており、特に日本企業との取引が活発です。
プログラミング教育の充実と若年層の多さを背景に、優秀なエンジニアが多数輩出されています。人件費の安さもあり、オフショア開発拠点として多くの外国企業が進出していますが、近年では中堅〜シニアエンジニアの給与水準が上昇傾向にあり、質の高い人材の確保が競争の鍵となっています。
クラウドコンピューティング
クラウドコンピューティングは、ベトナムのIT市場で最も急成長している分野の一つです。2025年までに市場規模は2023年の2.5倍、10億ドルを超えると予測されています。
政府のデジタル化推進政策により、行政機関や金融機関をはじめとする多くの企業がクラウドサービスを導入しており、特にハイブリッドクラウドやSaaS型ソリューションの需要が高まっています。現在、国内市場の約8割は外資系プロバイダーが占めていますが、国産クラウドの育成も進められています。
フィンテック
フィンテックは、ベトナムのIT産業において最も注目されている分野の一つです。特にモバイル決済やデジタルバンキングの普及が進んでおり、キャッシュレス社会への移行が加速しています。
2025年時点で、ベトナムには120社以上のフィンテック企業が存在し、その多くがデジタル決済、資産管理、ブロックチェーン、暗号通貨などのサービスを提供しています。政府は都市部でのキャッシュレス決済比率を50%以上に引き上げる目標を掲げており、今後も成長が期待されます。
eコマース
eコマースは、人口約1億人という大市場とインターネット普及率の高さを背景に、急成長を遂げている分野です。2020年時点での市場規模は100億ドルを超え、2025年にはASEANでトップ3に入ることを目指しています。
ShopeeやLazadaなどの大手プラットフォームに加え、国内外の新興企業も参入しており、競争が激化しています。特に地方都市への物流網の整備や、モバイルファーストな消費者行動に対応したUX設計が重要なテーマとなっています。
ゲーム開発
ベトナムのゲーム開発市場も急成長しています。若年層の多さとスマートフォンの普及により、ゲームのプレイ人口が増加しており、モバイルゲームを中心に開発会社が急増しています。
近年では、国内市場だけでなく、グローバル市場をターゲットとしたゲーム開発も進んでおり、海外パブリッシャーとの提携や、NFT・ブロックチェーンゲームの開発も始まっています。
AI(人工知能)
AIは、ベトナムのIT産業において今後の成長を牽引する分野とされています。医療、金融、Eコマースなどの分野でAIを活用したサービスが導入されており、政府もAI研究開発を国家戦略として支援しています。
大学や研究機関ではAIエンジニアの育成が進められており、スタートアップ企業によるAIソリューションの開発も活発です。特に、自然言語処理、画像認識、予測分析などの分野での応用が進んでいます。
ブロックチェーン
ブロックチェーン技術も、ベトナムのIT業界で注目されている分野です。金融、不動産、物流などの分野での活用が進んでおり、特に海外送金やデジタル資産管理において高い関心が寄せられています。
仮想通貨の普及率も高く、若年層を中心に暗号資産への関心が高まっており、ブロックチェーン関連のスタートアップも増加しています。
ベトナム政府の政策について
ベトナム政府は、IT産業を国の成長エンジンと位置づけ、積極的に推進する政策を展開しています。支援の対象は国内企業にとどまらず、外資系企業に対しても税制面や人材育成面での優遇措置が講じられており、IT分野への投資を強力に後押ししています。
以下に、ベトナム政府がIT産業を推進するために取り組んでいる主な政策をご紹介します。
外資系企業に対する優遇税制
ベトナムでは「投資法」に基づき、IT、ハイテク、教育、医療などの分野を「投資優遇分野」として指定しています。IT企業に対しては、以下のような法人税優遇措置が適用されます:
法人税率10%の適用(最大15年間)
売上を計上した年度から最大15年間、法人税率10%が適用されます(通常は20%)。課税所得に対する免税・減税措置
課税所得が発生してから最初の4年間は免税、その後9年間は50%の減税が適用されます。
ただし、これらの優遇措置を受けるには、「ソフトウェア開発事業」であることを証明する必要があり、開発プロセス(要件定義、設計、開発、テスト、導入、保守など)を明確に示す必要があります。また、VINASA(ベトナムIT企業協会)や情報通信省(MIC)からの技術証明や事前照会が推奨されており、税務調査時の証拠としても有効です。
IT人材育成支援
ベトナム政府は、1998年に制定された教育法に基づき、初等教育からIT・英語教育を導入しています。小学3年生から英語とコンピューター教育が始まり、全国の学校でデジタル教育環境の整備が進められています。
特に、STEM(科学・技術・工学・数学)教育の強化に注力しており、大学や専門学校ではAI、ソフトウェア開発、データサイエンスなどの分野に特化したカリキュラムが導入されています。さらに、国内外の専門家による研修や、IT人材育成を目的としたイベント・コンテストの開催も支援されています。
また、政府は2025年までに「インダストリー4.0」に対応できる人材の90%を育成することを目標としており、教育機関と産業界の連携も強化されています。
これらの政策は、ベトナムのIT産業の競争力を高め、国内外の企業にとって魅力的な投資先となるための重要な基盤となっています。今後も、政府主導による制度整備と支援策の拡充が進められることで、ベトナムは東南アジアにおけるITハブとしての地位をさらに確立していくことが期待されています。
ベトナムのIT業界が持つ可能性とは
これまでご紹介してきた通り、ベトナムのIT業界は多くの成長要因を背景に、今後も大きな可能性を秘めています。以下では、その主な要因を整理しながら、将来展望について解説します。
ベトナム経済の成長に伴う需要の拡大
ベトナムのGDPは2023年に約4,300億ドルに達し、2024年には6.0〜6.9%の成長が見込まれています。中流階級の拡大により、消費者向けのITサービスや製品への需要が急増しており、特にクラウドサービス、ビッグデータ、AIなど、企業の業務効率化やDX(デジタルトランスフォーメーション)を支える技術へのニーズが高まっています。
人口の大きさと若年層の比率
ベトナムは2025年に人口1億人を突破すると予測されており、その約70%が30歳以下という若年層中心の人口構成が特徴です。この若い労働力は、IT教育に積極的に取り組んでおり、年間約5万人のITエンジニアが社会に輩出されています。このような人材供給力は、国内外の企業にとって大きな魅力となっています。
地理的位置と文化的背景
ベトナムはアジアの中心に位置し、日本、中国、韓国、ASEAN諸国などの主要市場に近接しています。この地理的優位性に加え、多様な文化的背景を持つ国民性が、国際的なビジネス展開において柔軟性と適応力を発揮しています。特に、英語力やコミュニケーション能力に優れた若手人材が多く、グローバルプロジェクトへの対応力も高まっています。
政府の方針・支援
ベトナム政府は、2020年を「国家デジタルトランスフォーメーション元年」と位置づけ、2025年までにデジタル経済がGDPの20%、2030年には30%を占めることを目標としています。また、インダストリー4.0に対応する人材の90%を2025年までに育成すること、グローバル・イノベーション指数(GII)でASEANトップ3入りを目指すなど、明確な数値目標を掲げています。
さらに、AI、ビッグデータ、ブロックチェーンなどの先端技術分野に対しても、政府主導で研究開発や人材育成への投資が進められています。2024年には「国家ブロックチェーン戦略」や「半導体産業発展戦略」も策定され、IT産業の多角的な成長を支えています。
技術革新と社会的発展の促進
ベトナムのIT業界は、単なる経済成長のエンジンにとどまらず、社会全体の発展にも寄与しています。たとえば、ビッグデータ解析は医療や農業分野での生産性向上に活用されており、ブロックチェーン技術は契約や取引の透明性を高め、不正防止にも貢献しています。
このように、IT産業は他産業との連携を通じて、より持続可能で効率的な社会の実現に向けた重要な役割を果たしています。
まとめ
ベトナムがなぜIT人材大国となったのか、その背景や動向を理解することで、海外転職を検討する際に自身のキャリアと結びつけて考えるヒントが得られるのではないでしょうか。
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