多様性の国インド
インドは日本の約9倍の広大な国土を持ち、地域によって気候、言語、文化、産業構造が大きく異なります。北部と南部では生活環境もまったく異なり、都市ごとにビジネスニーズやマーケットの性質も変化します。そのため、進出している日系企業の業種や活動内容にも地域ごとの特色が見られます。
各都市によって異なる労働環境
デリー:商業・工業・政治の中心地、南アジアを代表する世界都市
インドの首都デリーは、近郊のグルガオン(ハリヤナ州)、ノイダ(ウッタル・プラデシュ州)とともに、NCR(National Capital Region)と呼ばれる経済圏を形成しており、インド国内でも最も発展した地域の一つです。
この地域の気候は乾季と雨季がはっきりしており、3月末から6月頃までは気温が40℃を超える日もあります。ただし、日本の夏と比べて湿度が低いため、不快感はそれほど強くありません。その後、約2か月間の雨季を経て、11月末頃からは気温が徐々に下がり、冬を迎えます。平均最低気温は東京よりやや高い5℃前後ですが、時期によっては0℃近くまで冷え込むこともあります。「インド=年中暑い国」というイメージを持たれている方も多いかもしれませんが、北インドの実際の気候はそれとは異なり、四季の変化が感じられる地域です。
このNCR地域には、日系企業の拠点が最も多く、製造業を中心に約1,200拠点以上が展開しているとされています。また、日本人の居住者数も6,000人を超えており、インド全体で最も日本人が多く住むエリアとなっています。こうした大きな日本人コミュニティがあることから、日本人向けのサークル活動も盛んで、参加することで新たなつながりや発見が得られるかもしれません。
経済圏としてはインド国内で最も繁栄している地域といえます。特にグルガオンは日本人の居住者が多く、日本食レストランや日本語対応の医療機関、不動産、人材紹介など、日本人向けのサービスが広く普及しており、生活の利便性が非常に高いことが特徴です。
日系企業の進出状況を見ると、都市中心部には家電・機械などのメーカーの販売会社や商社、日本人向けの物流、不動産、医療、人材サービスなどの企業が多数進出し、オフィスを構えています。
一方、製造拠点はデリー・グルガオン近郊の工業地帯に集中しており、マネサール(ハリヤナ州)、ニムラナ(ラジャスタン州)、ノイダ(ウッタル・プラデシュ州)などが主要なエリアです。たとえば、グルガオンにはインド自動車市場で確固たる地位を築いているスズキをはじめ、ホンダ、旭硝子などが進出。マネサールにはスズキの大規模工場があり、ニムラナにはダイキン、ユニ・チャームなどの製造拠点が展開されています。ノイダにはホンダ、ヤマハなどの工場が立地しており、日系製造業の重要な集積地となっています。
ムンバイ:商業・娯楽の中心、インド最大の都市
デリーと並び、インド最大の都市として知られるムンバイ(マハラシュトラ州)は、人口2,000万人を超える巨大都市であり、商業・金融の中心地として重要な役割を担っています。イギリス統治時代には、東インド会社のインド経営の拠点として「ボンベイ」の名で知られていました。
ムンバイの気候は雨季と乾季が明確に分かれており、年間を通して平均最高気温は30℃前後と、暑い時期が長く続きます。高温多湿な環境ではありますが、都市機能が整っているため、生活の利便性は高いといえます。
娯楽産業においてもムンバイは国内随一の都市です。インド映画業界の中でも、ヒンディー語による娯楽映画産業の中心地であり、「ボリウッド」として世界的に知られています。ほとんどの国内主要テレビ局や衛星ネット局、出版社がムンバイに本社を構えており、映画・メディア関連のビジネスが盛んです。映画好きの方にとっては、非常に魅力的な都市といえるでしょう。
また、ムンバイは新しいカルチャーが浸透しやすい都市としても知られており、グローバルブランドの店舗や、おしゃれなバー、レストランが数多く存在します。治安も比較的良好とされており、深夜に女性同士でレストランやバーに出かけることも可能なエリアがあるなど、都市としての成熟度が高いことがうかがえます。
ムンバイの物価事情の中でも特に注目されるのが家賃です。ムンバイは世界でも有数の家賃が高い都市として知られており、特に南部地域ではニューヨークのマンハッタン並みに家賃が高騰しています。その他の物価は他都市と大きな差はありませんが、貧富の差が非常に激しい地域でもあるため、生活水準には大きな幅があります。
日系企業の進出状況を見ると、ムンバイでは販社、商社、金融、海運などのサービス部門が中心となっており、製造拠点は内陸部の近郊都市プネに展開されています。プネにはインド地場大手や外資系自動車メーカーの製造拠点が集まっており、日系企業では荏原製作所、シャープ、ケーヒン、矢崎総業などが拠点を構えています。
バンガロール:インドのシリコンバレー、避暑地としても知られる都市
バンガロール(カルナータカ州)は、マイソール高原の上、標高約920mに位置する都市で、高原地帯ならではの年間を通して25℃前後という過ごしやすい気候が特徴です。インドで連想されがちな猛暑とは無縁で、「インドの庭園都市(ガーデンシティー)」とも呼ばれるほど、快適な環境が整っています。
実際にバンガロールで働く人々の多くが「とても過ごしやすい」と口を揃えており、インド国内でも避暑地として知られる都市です。都市の雰囲気も穏やかで、インド特有の喧騒や混沌とした空気が比較的少なく、住みやすさに定評があります。
日系企業の進出状況としては、まずトヨタが代表的であり、同社の関連企業も多数バンガロールに拠点を構えています。その他にも、コマツ、ファナック、安川電機、日清食品など、製造・技術系の日系企業が進出しており、産業の多様性が見られます。
さらに、バンガロールは「インドのシリコンバレー」と称される通り、IT産業の中心地でもあります。インド系企業だけでなく、日系のスタートアップ企業も数多く進出しており、オフショア開発拠点としての役割も強まっています。技術者やエンジニアにとっては、非常に魅力的な環境といえるでしょう。
2020年3月には、成田―バンガロール間の直行便が就航し、日本とのアクセスも向上しました。これにより、出張や駐在の利便性が高まり、今後さらに日系企業の進出が見込まれる地域となっています(※運航状況は航空会社により変動する可能性があります)。
チェンナイ:南インドの玄関口、交通と産業の要所都市
チェンナイ(タミル・ナドゥ州)は、ベンガル湾に面した南インドの海沿いに位置する都市で、イギリス統治時代には「マドラス」と呼ばれていました。「南インドの玄関口」とも称され、国際線の発着が多く、交通アクセスの良さが際立っています。
2019年には成田〜チェンナイ間の直行便が就航し、インド国内線の乗り継ぎが不要になったことで、駐在員や出張者にとっての利便性が大きく向上しました。
チェンナイは、インド国内で第二の貿易港を有しており、南インド経済において極めて重要な役割を果たしています。「インドのデトロイト」とも呼ばれるこの都市には、多くの二輪・四輪メーカーが製造拠点を構えており、完成車メーカーを中心に製造業が集積しています。四輪メーカーではヒュンダイ、フォード、ルノー日産、いすゞなど、二輪メーカーではYAMAHAなどが進出しており、インド国内でも有数の自動車産業クラスターを形成しています。
言語面では、北インドで主に使用されるヒンディー語とは異なり、チェンナイではタミル語が日常的に使われています。州をまたげば言語が変わるのがインドの特徴であり、共通語として英語が広く使用されています。チェンナイの人々は温厚で、北インドに見られるようなアグレッシブさはあまり感じられません。南国特有ののんびりとした気質があり、宗教的にも保守的な傾向が見られます。
また、北インドでは外国人をじっと見つめるような文化的反応が見られることもありますが、チェンナイでは目が合う前に視線をそらすような控えめな印象を受けることが多く、外国人にとっても過ごしやすい環境です。街には活気があり、人々の生活に根ざしたエネルギーが感じられるのも魅力の一つです。
さらに、チェンナイには世界で2番目に長いとされるビーチがあり、サーフィンを楽しむこともできます。都市でありながらリラックスした雰囲気が漂い、観光客にとっても快適に過ごせる街です。
気候は南部に位置するため、ムンバイ同様に年間を通じて暖かく、湿度も常に50%を超える蒸し暑い環境です。海とヤシの木、トロピカルフルーツに囲まれた南国ムードが漂い、鮮魚が手に入りやすい点は日本人にとっても嬉しいポイントです。最近では日本食レストランも増えており、北インドに比べて寿司や魚料理を気軽に楽しめる環境が整いつつあります。
日系企業の進出状況としては、先述の完成車メーカーに加え、味の素、パナソニック、島津製作所、自動車部品メーカーなどが拠点を構えています。さらに、金融、商社、物流などのサービス業も進出しており、チェンナイは南インドにおける日系企業の重要な拠点の一つとなっています。
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